大型書店の文房具コーナー
息を潜めるように
プラスチック什器に放り込まれた
数十本の新品“印“のボールペン群。
そこに置かれた「試し書き」の
小さなメモ用紙には
いつか、誰かが書き込んだ
くだらない言葉があった。
"最後は、自分で決めるのだ!"
どのペンで書いたのだろう。
もしかすると
この新品を装う者の中でさえ
既に誰かに、僕のインクが奪われている!?
新品が欲しい。
試験なしでは、うまくインクが
滲まないかもしれないけれど。
完璧な新品 = インクは一滴も未使用の
完全無欠な新品をください。
―
って、お前は、馬鹿なのか。
あれは、俺達、ひとつひとつの
個体の能力を試すものではないというのに。
集団の特性を試す意識はないのかね。
ペン先の肌触り、お前のグリップとの絶妙な相性、手首が感じる確かな重量。
うまく書けない可能性?
俺達を舐めてもらっては、困るのですが。
AI様の厳しい審査をくぐり抜けて来た俺達に、
お前のちっぽけな懸念など
何の価値があると言うのか。
自意識過剰が聞いて呆れる。
しかも、お前の迷いごとは、
俺達、安価な精鋭に向けてのみ。
向こうの棚を見てみろよ。
高価なあちらさんは、
きちんと見本品が用意されている。
お前が、そこで震えながら「新品、新品」と声高に探しているのは、
俺達の値段が、お前の自尊心の限界値だからだ。
たかだか数滴のインクを失うことが、
お前の人生にとっての、最大の敗北なんだろ?
―
声を失い、たじろいだ僕は
脇の紙切れに助けを求める。
そこには、丸っこい、
だけれど、読みやすい筆跡で、
神の言葉が書いてある。
"自分を卑下しちゃいけないよ。
自分の価値は自分で決めるんだ!"
僕は誇りをもって
克己の想いを詩に書いてみる。
昨日のペンで。
うまくいかないことだらけ。
だけど、
ほら、昨日のペンが掠れゆくから、
意図した
戯言ですら書けやしない。
こんな、脈絡のない…。
虚勢を張って、僕は行くんだ。
ほら、間違えた…。